《第70問》
第三幕第三場でロミオが「追放」の判決を受け悲嘆に暮れるとき、僧ロレンスが「その言葉をはね返す鎧」と呼んでロミオに授けようとするものは何か。
正解
不正解
- 愛(love)
- 哲学(philosophy)
- 信仰(faith)
- 愛(love)
- 哲学(philosophy)
- 信仰(faith)
- 解説
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第三幕第三場で、「追放」という判決を受け嘆き悲しむロミオに、僧ロレンスはこのように言う。
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I'll give thee armour to keep off that word:
Adversity's sweet milk, philosophy... (3.3.54-55)
訳)
その言葉をはね返す鎧をあげよう。
逆境にある者への甘いミルク、哲学だ。
ロミオは、この街から「追放」されることは死に等しく、この状況を打開するには自殺するより他はないと考えるに至る。しかし、そうした心理的状態に陥ったロミオをロレンスは「狂人」('madman')と呼ぶ。じつは、この「狂人」という言葉は、第一幕第二場で交わされたベンヴォーリオとロミオの次の対話を観客の脳裏に甦らせる。
BENVOLIO Why, Romeo, art thou mad?
ROMEO Not mad, but bound more than a madman is:
Shut up in prison... (1.2.51-53)
訳)
ベンヴォーリオ おい、ロミオ、気でも違ったか?
ロミオ 違っちゃいない、でも気違い以上に苦しい思いだ。
牢屋につながれ‥‥
初演当時のロンドンでは、狂気(madness)は悪魔付きによる病とされ、『十二夜』の中でサー・トビーやマライア達がマルヴォーリオに対して施すように、患者を牢に監禁した状態で行われる悪魔祓いの儀式によってその治療が行われていた。すると、ロミオが自分の身の上を 'bound more than a madman is' というとき、彼は、すでにヴェローナという土地が自分を閉じ込める「牢屋」(prison)のごとき場所であると認識していたことになる。この視点に立って第三幕第三場を観ると、「追放」という、本来はロミオをその牢から解放する判決を、「死刑」に等しいと考えてしまう彼は、自分自身をその牢につなぎとめようとしているように見える。世界を広大な空間 ― 'world is broad and wide'(3.3.16)とロレンスは言う― と捉えるなら、辺境の地にすぎないヴェローナの法治体制など、時が経てば世界情勢によって変化するだろうし、したがって、いずれは「大公のお赦し」(3.3.152)を得ることさえできると考えれば、「追放」は、その後に、「立ち去る今の悲しみの/百万倍にも及ぶ」歓びをもたらしうる(3.3.153-54)。そう考える世界観こそが、ロレンスのいう「哲学」である。
第三幕第三場以降のシーンをよく読めば、ロミオだけではなく、ジュリエットもまた、この世界観をその行動や思考が基づく原理としていることが分かる。ロレンスというカトリックの修道士が、若き恋人達を「愛」や「信仰」の次元へと導く存在ではなく、辺境に生きる若者達にルネッサンス的な世界観を説く存在として表象されていることは、じつに興味深い。