《第30問》
劇中においてブランク・ヴァース(無韻詩)と呼ばれる形式で成立している台詞を最初に話すのは?
正解
不正解
- グレゴリー
- マキューシオ
- ベンヴォーリオ
- グレゴリー
- マキューシオ
- ベンヴォーリオ
- 解説
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ブランク・ヴァースは弱強五歩格(iambic pentameter)― つまり、十音節からなる詩行を音声学的に分析すると、弱強二音節からなる音のユニットが五つ並んだ形 ― をその基本形とする。この詩形式は、サリー伯爵ヘンリー・ハワードの翻訳したヴェルギリウスの『アエネーアス』(Aenaid, 1557)で最初に用いられ、芝居ではトマス・ノートンとトマス・サックヴィルの合作による悲劇『ゴーボダック』(Gorboduc, 1562)で最初に用いられた。後にマーローがそのスタイルを完成させ、シェイクスピアがそれを継承した。シェイクスピアの芝居では、ブランク・ヴァースはそれを話す登場人物が高い身分に属することを意味している。
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『ロミオとジュリエット』で聴くブランク・ヴァースで綴られた最初の台詞は、ベンヴォーリオによって語られる次の一文である。
Put (弱) up (強)/ your (弱) swords (強), /you (弱) know (強)/ not (弱〈強〉) what (強)/ you (弱) do (強). / (1.1.52)
(剣をおさめろ。何をやっているのか分かっているのか。)この行はおおよそ上記のようなイントネーションで発音される。ここに登場してくるティボルトも、すぐに続いてブランク・ヴァースの台詞を話すので、それまで観客が耳にしていた召使達の台詞とはまったく異質の音で綴られた台詞が耳に入ってくるようになる。この韻律こそ、当時の演劇通達が芝居に求めていた非日常的な詩的言語のリズムであった。
さらに詳しく第一幕第一場の幕開けの場面を、言葉のリズムの変化に注目して見てみると、
(1) 一行―五五行(召使たちの喧嘩) → 散文
(2) 五六行―六三行(ベンヴォーリオとティボルトの対話)→ 韻のある軽快なブランク・ヴァース
(3) 六四行―六五行(大勢の市民の台詞) → 散文
(4) 六六行―七一行(キャピュレットと夫人の対話、続いてモンタギューと夫人の対話)
→ 韻のある軽快なブランク・ヴァース
(5) 七二行 ―(大公の台詞) → 韻のないブランク・ヴァース
という具合に音の調子がテンポよく変化している。この工夫によって、現代の劇場の観客よりも遙かに騒々しかったと思われる当時の観客(召使達が連発する下品で卑猥な言葉はその騒々しさにさらに拍車をかけたかもしれない)を、徐々に劇世界へと引き込んでゆく効果が得られていたと推測される。