《第28問》
劇中で大公エスカラスの存在が象徴していると思われるものはどれか?
正解
不正解
- キリスト教徒の生活を律する目的で宗教的道徳に基づいて制定された教会法(ecclesiastical law)
- 判例の蓄積によって成立している慣習法の体系であるコモン・ロー(common law)
- 「国王の良心の保持者」としての大法官がその執行に関った衡平法(equity)
- キリスト教徒の生活を律する目的で宗教的道徳に基づいて制定された教会法(ecclesiastical law)
- 判例の蓄積によって成立している慣習法の体系であるコモン・ロー(common law)
- 「国王の良心の保持者」としての大法官がその執行に関った衡平法(equity)
- 解説
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「人殺しを赦すような慈悲は、殺人に等しい」という厳格な言葉をいう大公であるが、彼は衡平(equity)の理念に基づいて裁判を行なっていると考えられる。
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イギリスにおいて衡平法が成立したのは17世紀中葉とされるが、シェイクスピアはすでにその近代的な裁判の方法に並々ならぬ関心を抱いていて、『ヴェニスの商人』や『尺には尺を』などにも、衡平法の関心事である ‘conscionable judgment’ についての深い考察の跡が窺がえる。『ロミオとジュリエット』はコモン・ローによって統治された法治国家を描いた芝居であることは、幕開けの場面ですでに示される。
サムソン 法律を味方につけよう。向こうから仕掛けさせるんだ。
グレゴリー すれちがいにガン飛ばそう。それをどうとるかはあっち次第だ。
中略
エイブラハム 俺たちを馬鹿にして[指を]噛んだのか?
サムソン[グレゴリーに] そうだと言っても法律はこっちの味方か?
グレゴリー いや。
グレゴリーとサムソンのこのやり取りは、先例によって喧嘩を仕掛けたものが罰せられるという法律が成立していることを示している。また、騒乱を扇動した者に対しては「治安撹乱の罰として死刑」が言い渡されるという法律が成立していることも、すぐに登場する大公の台詞から分かる。第三幕第一場は、大公がマキューシオ、ティボルト殺傷事件の真相を究明し、この法律に照らして主犯を裁こうとする場面である。ベンヴォーリオはその主犯はティボルトであると主張し、キャピュレット夫人はそれを虚偽だと主張するが、大公は、発端は「両家の感情のもつれ」にあると判断して「両家に重い罰を課す」意向を示す。キャピュレットへの罰は、喧嘩騒動を扇動し、マキューシオを殺傷したティボルトを死罪に処するというものであるが、この罰はすでにロミオの剣によって執行済みである。モンタギューへの罰は、殺傷事件を起こしたロミオを追放の刑に処するという重い罰である。自分の血族であるマキューシオを殺した人物を法に代わって罰したロミオの罪は放免したいというのが、大公の本音であっただろうが、放免すればそれがさらなる不埒な争いの種となると考えての公正な裁きといえる。ロミオに死刑判決を下さなかった大公の裁量については、後に、ロレンスが、「国法に照らせば[ロミオ]の罪は死罪、だが寛大な大公は/…法を曲げてまで/「死刑」という恐ろしい言葉を「追放」に変えてくださった」(第三幕第三場)と述べている。