Notice: Undefined variable: filter_strings in /home/la-kentei/www/la-kentei.com/COMMON/INC/def.php on line 935
すべての問題にチャレンジ!(20/80) | ロミオとジュリエット | リベラルアーツ英語検定クイズ

リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > すべての問題にチャレンジ!(20/80)

《第20問》
『ロミオとジュリエット』には、シェイクスピアが活躍していた頃、断続的にイギリスを襲い、多くの人々の命を奪ったある災難が、芝居全体に陰鬱な影を落としている。その災難とは何か?

正解

不正解

解説

国内における疫病(ペスト)の脅威は、明らかに、テクストの至る所にその影を落としている。そもそも、ロミオとジュリエットのすれ違いの死を招いた直接的な原因は、ペストで街が封鎖されたことによって、僧ロレンスの手紙がマンチュアに届けられなかったことである。

より詳しい解説を読む

 1580年4月に大地震がイギリスを襲ったという記録があり、また、1584年にも同様の地震があったという事実が知られていて、しばしば、第一幕第三場に見える「あの大地震からもう十一年」という乳母の台詞はこの何れかに言及したものかもしれない、という憶測がなされた。しかし、その大地震が、芝居全体に影を落としているとは考えられない。また、第一幕第四場に見えるマキューシオの「敵兵の首を切る夢/突撃、伏兵、スペイン産の名剣/底なしの乾杯の夢...」という台詞は、1596年6月のイングランド軍のカーディス遠征について触れたものかもしれないという憶説もあるが、根拠はない。イングランドにとってスペインは脅威であり、1588年に続いて、1596年にも無敵艦隊による侵攻の危険にさらされたが、艦隊は、嵐によって壊滅した。しかし、この事件がテクストに影を落としているとも考えにくい。
 一方、国内における疫病(ペスト)の脅威は、明らかに、テクストの至る所にその影を落としている。そもそも、ロミオとジュリエットのすれ違いの死を招いた直接的な原因は、ペストで街が封鎖されたことによって、僧ロレンスの手紙がマンチュアに届けられなかったことである。第三幕第一場で死に瀕したマキューシオが退場してゆく際に言い残す「どっちの家もくたばりやがれ!」という台詞は、原文では、“A plague a’both your houses!”(3.1.97)となっていて、これを直訳すると「両家にペストの災難が降りかかりますように!」という呪詛の言葉になるが、いみじくも、そのペストが災いして、両家の未来は絶たれてしまうことになるのだ。ペストを天罰とさえ考えていた当時の観客にとって、この芝居の結末は、現代の私達が考えるよりもはるかに怖しいものと感じられていたに違いない。後に、僧ロレンスは、「人知を超えた大きな力が/我々のもくろみを阻んだ」(第五幕第三場)というが、そのとき、ロレンスは、霊廟において、ペストで亡くなった多くの人々の屍と対峙し、恐怖に慄いている様子である(「そこは死と疫病と不自然な眠りの巣窟だ」といい、さらに「もうここへはいられない」ともいっているが、彼は「人知を超えた大きな力」の存在を、疫病の犠牲者が横たわるメランコリックな光景の中に見ていると思われる)。
 考えてみると、モンタギューにもキャピュレットにも子は一人ずつしか存在しないが、それは、彼らに子が一人ずつしか授からなかったからではなく、一人ずつしか生き残らなかったからである。キャピュレットはジュリエットについて、「頼みの綱の子供らにはみな先だたれ、残るはあの子ひとり」(第一幕第二場)といっているし、モンタギューは、「さあ、モンタギュー、お前が早起きしたのは/早死にした跡取り息子に会うためだ」(第五幕第三場)という大公の言葉を聴いても、大公のいう「早死にした跡取り息子」がロミオを指すとはすぐに理解できていないことから、彼にも他に亡くなった息子がいたと推測できる。また、乳母にも、スーザンという名の娘がいた。テクストは、両家に生まれた子達やスーザンの死因について一言も触れないが、しかし、触れないことで、むしろ、それが切実に伝わったのではあるまいか。
 当時は、ペストが流行すると、夥しい数の人々が死んだ。シェイクスピア、役者達、そして、(統計学的に言えば)ほぼすべての観客が、蔓延する疫病によって肉親を失った経験を有していた。1592年から1594年までの期間は、特に長期に渡ってペストが流行し、ロンドンのすべての公設劇場は二年近く閉鎖されていた。その後ほどなくして初演された芝居が、『ロミオとジュリエット』である。したがって、ペストの脅威という語らざれしトラウマが、芝居全体に陰鬱な影を落としていると読めて当然なのかもしれない。

戻る 次へ