《第18問》
『ロミオとジュリエット』に描かれていない場所はどこか?
正解
不正解
- 僧ロレンスの庵
- 教会の礼拝堂
- 教会墓地
- 僧ロレンスの庵
- 教会の礼拝堂
- 教会墓地
- 解説
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『ロミオとジュリエット』では、じつに多くのアクションが教会の周囲にて起こるが、その一方で、教会の御堂内で展開される場面はひとつも存在しない。
より詳しい解説を読むフランコ・ゼフィレーリ(Franco Zeffirelli)監督の映画(1968)やバズ・ラーマン(Baz Luhrmann)監督の映画(1996)の記憶が鮮明に残っている方には、難しい問題であったかもしれない。しかし、テクストをよく読んでいる方にとっては、やさしい問題である。
『ロミオとジュリエット』では、じつに多くのアクションが教会の周囲にて起こるが、その一方で、教会の御堂内で展開される場面はひとつも存在しない。まず、僧ロレンスが初めて舞台に登場する第二幕第三場は、野外という設定である。そして、第二幕第六場でロミオが待ち、そしてジュリエットが訪れてくる場所も、教会ではなく、「僧ロレンスの庵」(“Friar Laurence's cell”)であり、第三幕第三場でロミオが潜伏しているのも同じく僧の庵、第四幕第一場で僧ロレンスとパリスが登場し、ジュリエットが訪れる場所も、やはり、僧の庵である。第二幕第六場は、ロミオとジュリエットが宗教の儀式に従って結婚の契りを交わしたことを意味するシーンであるが、教会内での儀式そのものは舞台にかからない。
シェイクスピアの時代は、教会における儀式やその拠り所となる『祈祷書』(The Book of Common Prayer)がよく改定された時代である。宗教改革後も、伝統的なカトリックの考えに倣い、結婚を霊的な恩恵を受ける儀式(Sacrament)として扱う傾向が強かった『祈祷書』であるが、その是非を巡っては、アンドルー・ウィレット(Andrew Willet, Synopsis Papismi, or a General View of Papistrie, 1592の“The Fifteenth General Controversy, of Matrimony”と題された章)が示すように、神学者の間で激しい論争が繰り広げられていた。そのような時代に、サクラメントとしての儀式や、それを連想させるカトリックの礼拝堂を舞台上に描くことは、いらぬ物議を醸しだす結果を招きかねないと、シェイクスピアは考えたのかもしれない。あるいは、エリザベス朝の人々にとって、結婚の儀式は「その存在論的な意味が際立って曖昧であった」(Daniel Swift, Shakespeare's Common Prayers, Oxford UP, 2013, p. 69)ために、舞台において描く術がなかったのかもしれない。
いずれにせよ、「シェイクスピアの舞台では、結婚の儀式が、その全体を通じて演じられることはない」(David Bevington, Action is Eloquence, Harvard UP, 1984, p. 142)という興味深い事実がある。