《第9問》
foot の複数形が feet になるのはなぜでしょうか。
正解
不正解
- ラテン語の影響から
- 古英語の複数形がそのまま残ったため
- フランス語の影響から
- ラテン語の影響から
- 古英語の複数形がそのまま残ったため
- フランス語の影響から
- 解説
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英語の複数形の一般的な形は -(e)s ですが、不規則な変化をする複数形もあります。その一つが feet のように母音変化をしている場合です。foot の古英語の形は fōt [フォート] であり、feet の古英語の形は fēt [フェート]です。なぜ fōtが fētに変化したのでしょうか。古英語よりも前のゲルマン語では fōt の複数形は *fōtiz [フォーティズ] であったと考えられます。「考えられる」と言うのは、ゲルマン語の古い文献が残っておらず、確認はできないからです。ただし、比較言語学の研究成果により、文献は存在しなくともある程度の形は想定できるのです。このような語形には * を付けて表します。*fōtizの i [ィ]が前にある ō [オー] の音に影響して [ィ] に近い音のē [エー] に変化します。つまり、*fētiz となります。この後、強強勢は ē にあり、i には弱強勢しかないので、-iz は綴りから消えます。この結果、複数形の fēt が生じたのです。
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ところで、ē は中英語までは [ e꞉ ] [ェー] ですが、後期中英語から初期近代英語にかけては [ i꞉ ][イー] となります。この音変化はどのように説明されるのでしょうか。実は1400年頃から長母音に大きな音変化が起きていました。この音変化は「大母音推移」(Great Vowel Shift)と呼ばれているものです。これを図示すると次のようになります。
中英語 初期近代英語 現代英語
1100-1500 1500-1700 1900-
i꞉ → ei → ai
e꞉ → i꞉ → i꞉
ɛ꞉ → e꞉ → ei / i꞉
a꞉ → ɛ꞉ → ei
u꞉ → ou → u
o꞉ → u꞉ → u꞉
ɔ꞉ → o꞉ → ou
この音変化でみると、fēt は中英語で ē [ e꞉ ] であったものが、大母音推移により、[ e꞉ ] →[ i꞉ ]という変化が生じたことになります。これが現代英語の feet [ fi꞉t ] [フィート] と発音されている理由です。
それでは、foot と同じように oo の綴りを持つ book の複数形が beek [ビーク] にならないのはなぜでしょうか。book の古英語の形は bōc [ボーク] であり、複数形は bēc [べーク] です。bēc になるのは bōc の本来の複数形は *bōciz と考えられるからです。*-iz という複数語尾が付加されていることから、fōt → fēt と同じ変化をしたことは容易に理解できます。
ならば、現代英語での複数形 books はどこから来たのでしょうか。初期中英語以降、名詞の複数語尾は -(e)s が圧倒的に多く使われるようになります。この類推から bōc → bēc とはならず books となったのです。綴りの c → k は、すでに 第1問の解説で説明しましたように、c が k の代わりに使われていましたが、あまり「出番」はなかったのです。中英語になると古フランス語の影響から c がたびたび [ s ] 音を表すようになり、そのために [ k ] 音を表す k という綴りが頻繁に用いられるようになりました(ただし、c が [ k ] 音になるのは a、o、u、l、r の前にある時だけ:cat [kæt] 「猫」、cook [kuk] 「料理(をする)」、cut [kʌt] 「切る」、close [klouz] 「閉じる」、crown [kraun] 「冠」)。
もう一つはこの book の発音の問題です。なぜ book は [buk] と -oo- が短音の [ u ] なのでしょうか。 bōc の ō も大母音推移で [ o꞉ ] → [ u꞉ ] と変化したのですが、この[ u꞉ ] が17世紀から18世紀にかけて [ u꞉ ] → [ u ] となったのです。ついでに言えば、-oo- の綴りの音は三通りの変化をしています。
中英語 初期近代英語 後期近代英語 現代英語
[ o꞉ ] [ u꞉ ] [ u꞉ ] [ u꞉ ] (例 moon)
[ o꞉ ] [ u꞉ ] [ u ] [ u ] (例 book)
[ o꞉ ] [ u ] [ ʌ ] [ ʌ ] (例 blood)