リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2015年06月25日更新分(3/3)

《第45問》
次の登場人物の中で、短音節からなる語(monosyllabic words)を際立って多く使用しているのは誰か?

正解

不正解

解説

キャピュレットの台詞に単音節からなる語の頻度が極めて高いことは、例えば、第一幕第二場のこのようなくだりをみても一目瞭然である。

  And too soon marred are those so early made.
  Earth hath swallowed all my hopes but she;
  She's the hopeful lady of my earth.
  But woo her, gentle Paris, get her heart... (1.2.13-16)

 訳)早く成るものは早く壊れる。
   頼みの綱の子供らにはみな先立たれ、残るは子ひとり。
   だが、パリス殿、娘を口説いて心を摑まれるがいい。

一見単音節とは見えない二行目の swallowed という語でさえ、この台詞が弱強五歩格を基本とするブランク・ヴァースで書かれていることを考慮に入れると、一音節を省略し、swall'd のように発音されることになるので、事実上、monosyllabic words の数は、見かけよりも多い。これがキャピュレットの英語を特徴付ける重要な一要素となっている。

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他方、エスカラスは、

  Rebellious subjects, enemies to peace,
  Profaners of this neighbour-stainèd steel . . . (1.1.72-73)

 訳)治安を乱す不逞のやから
   隣人の血で刃(やいば)を汚すふらちな者ども――

のような英語を話し、また、ロレンスは、

  The grey-eyed morn smiles on the frowning night,
  Check’ring the eastern clouds with streaks of light... (2.3.1-2)

 訳)灰色の目をした朝が夜のしかめ面に微笑みかけ
   東の雲は光の条(すじ)で縞模様に染まっている。

のような英語を話す。この二人の英語と比べると、キャピュレットの英語は響きがまったく異なっていることは、英語を母語としない者にも聴き分けられる。
演出家のマイケル・ボグダノフ(Michael Bogdanov, 1931- )は、第三幕第五場でキャピュレットが娘を罵倒するシーンを引いてこう解説している。

「あまり威厳のある言葉とは言えない。むしろ、「身も蓋もない」言葉、中産階級の実業家が口うるさく娘を支配するときに使いそうな言葉だ。そっけなく、きつく、残酷で、洗練のかけらもない。指を体に食い込ませるように、単音節の単語を娘の心の「柔らかい肌」に突き立てる。モンタギューとキャピュレットは、この上なく対照的だ。「いずれ劣らぬ威厳」? とんでもない。確かに一方には威厳がある。でももう一方は違う。」(マイケル・ボグダノフ著、近藤弘幸訳『シェイクスピア・ディレクターズ・カット:演出家が斬る劇世界』東京:研究社、2005年刊、p. 51)

また、2014年7月に英国シェイクピア学会(スターリング大学にて開催)のゲストとして招かれたボグダノフは、その最終日の基調講演('John Drakakis in conversation with Michael Bogdanov')において、再びキャピュレットの英語に言及し、彼の持論を繰り返した。キャピュレットの英語は『ヴェニスの商人』のシャイロックの英語と類似していると思う、とも言っていた。この時、壇上でボグダノフと対談をしていたドラカキスも納得した様子を示していたので、かの地で一定の評価がなされた解釈であるとみて間違いない。
 「文は人なり」('Le style est l'homme même')という人文主義の考えに基づくなら、単音節語からなるブランク・ヴァースで綴られたキャピュレットの台詞からは、貴族的な風采を装うが、無教養であるためにうまくそれを達成できない彼の背伸びした様子が伝わってこないだろうか。「威厳」(dignity)を装うことに失敗し続けるところにキャピュレットの不憫さがあり、また、そこに、社会的身分を金で買うことができるようになった近代社会を俯瞰するシェイクスピア的感性が顔を覗かせてもいる。

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