《第31問》
『ロミオとジュリエット』を書いていたシェイクスピアは、「一目惚れ」という恋の成り行きのパターンについて考察していたと考えられる。その際 に、シェイクスピアが意識していたかもしれないクリストファー・マーローの作品のうち、「恋した者のうちで、一目で恋をしなかった者はいない」という有名 な一文が出てくるものはどれか?
正解
不正解
- 『カルタゴの女王』
- 『エドワード二世』
- 『ヒーローとリアンダー』
- 『カルタゴの女王』
- 『エドワード二世』
- 『ヒーローとリアンダー』
- 解説
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この一節は、『ヒーローとリアンダー』にあり、原文は 'Who ever loved, that loved not at first sight?' となっている。『お気に召すまま』第三幕第五場のフィービーの台詞に
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死んだ羊飼いさん、あなたの言葉の重みが今になって分かったよ
「恋した者のうちで、一目で恋をしなかった者はいない」という言葉の重みをね。
原文)Dead shepherd, now I find thy saw of might,
'Who ever loved that loved not at first sight?'
というくだりがある。フィービーのいう「死んだ羊飼い」とは、1593年に居酒屋での乱闘の末に命を落としたマーローのことであり、‘Who ever loved . . .’ の部分は『ヒーローとリアンダー』からの引用である。これは、『お気に召すまま』が書かれた1599年頃には、シェイクスピアがマーローの詩に通じていたことを示唆している。マーローが書き、ジョージ・チャップマンが加筆した『ヒーローとリアンダー』が本として最初に出版されたのは1598年であった。この本は、その後、何度も重版が出ていることから、シェイクスピアが『お気に召すまま』を書いていた頃、マーローの詩は民衆の間でも広く読まれていたと考えられる。『ロミオとジュリエット』を書いていた頃、シェイクスピアがこの詩の草稿を読んでいたかどうか確証するのは難しいが、少なくともライバル詩人の哲学や作風を強く意識していたことは間違いない(『ロミオとジュリエット』と同じ頃に書かれた『夏の夜の夢』には、シェイクスピアが『ヒーローとリアンダー』を読んでいたことを窺わせるくだりがいくつかある)。リアンダーがヒーローを口説こうとするくだりなどは、『ロミオとジュリエット』のバルコニー・シーンにその反響のようなものを読み込めなくもない。
マーローの詩では、運命的な恋が「一目惚れ」によって生じたことが強調される。ヒーローの美しさとリアンダーの容姿について大言壮語とも思われる描写が続いた後、二人が出逢い、お互いの容姿に一目で惹かれあう様子が語られる。一方、問題3の解説で述べたように、ロミオとジュリエットの愛は、厳密に言うと ‘love at first sight’ ではない。マーローの描く恋のテーマを、シェイクスピアは敢えて捻りを加えて描こうと試みたのかもしれない。