リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年12月15日更新分(1/1)

《第36問》
『日の名残り』でスティーブンスはかつてダーリントン卿がとったある差別的な行動に触れている。ダーリントン卿のとった行動とは次のうちのどれか。

正解

不正解

解説

ダーリントン卿に関する「たわごと」を耳にしたくないためにわざと卿に仕えた過去を否定したとスティーブンスは弁解していたが、次の章で「たわごと」がユダヤ人差別にかかわる内容であることが明かされる。さらにその次の章の冒頭でスティーブンスは、これが根も葉もない噂であると断言できる、と豪語する(Remains p.153)。しかしその直後にダーリントン卿がユダヤ人のメイドを解雇するようスティーブンスに命じたことが回想される。スティーブンスは、この出来事がイギリスファシスト同盟の一員であったバーネット夫人の影響によるものであり、一年以上経ってから解雇したことを悔やんだダーリントン卿が彼女たちに償おうとしたことに触れて、ダーリントン卿をどうにか弁護しようとする。むろん自己弁護も忘れない。ダーリントン卿からユダヤ人のメイドの解雇を命ぜられたとき「直感的に彼女たちを解雇することは間違っていると思った(my every instinct opposed the idea of their dismissal)」(p.156)と語る。だが一方で、当時解雇に断固反対したミス・ケントンに向かって感傷に浸ってはいけないと諭したのはスティーブンス自身であった。ユダヤ人のメイドについての回想が重要なのは、スティーブンスの執事としての偉大さを保証してくれるはずのダーリントン卿が高徳の紳士というスティーブンス自身が構築した理想像に抵触する行為を犯していたという点である。自らの語りによってスティーブンスの理想とする偉大な執事という自己像もまた同時に瓦解していくことになる。

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