《第28問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公バンクスの幼友達は、自分たち子供の役割をあるものにたとえる。それは次のうちどれか。
正解
不正解
- 百科事典の並んだ本棚
- ブラインドのより糸
- 庭のブランコ
- 百科事典の並んだ本棚
- ブラインドのより糸
- 庭のブランコ
- 解説
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バンクスが家族と上海で暮らしていた子供時代、彼は両親が時々話をしなくなることを幼友達のアキラに打ち明ける。するとアキラはバンクスにイギリス人らしさが足りないからだと言い、自分にも日本人らしさが足りないために、両親が落胆して話をしなくなることがあると言う。そしてある日本人の僧侶から聞いた話だとして、自分たち子供をブラインドの羽根板を留めているより糸にたとえる。
それは子供こそが、家族だけでなく、全世界をしっかりと繋ぎ止めているのであり、もし自分たちが役割をきちんと果たさなければ、羽根板ははずれて床の上に散らばってしまう、というものであった。このたとえはつまり、自分たち子供こそが、世界の秩序と安定を保っているということでもある。一読したところ、子供の他愛ない伝聞として読み流してしまうかもしれないこの箇所は、実は主人公バンクスの重要な行動原理を提示している。
大人になったバンクスは、探偵として動乱の上海に舞い戻り、両親失踪の謎に挑む。彼は両親を救い出し事件を解決することが、世界全体の秩序を回復することになると信じているのだ。そのあまりにも無垢な子供のような夢想は、幸福であった少年時代を取り戻したいという、バンクス自身の切実な欲求でもある。この物語が半ば荒唐無稽でありながらも、他方で一定の痛切な力強さを保持しているとすれば、このあたりにその理由があるのではないだろうか。
選択肢について補足すると、a はバンクスがロンドンのケンジントンンに借りているフラットに、もともとしつらえられていたもので、彼はその他の調度品も含めて、この住居を大変気に入っている。c は彼が上海で暮らしていたころ、家のテラス近くの芝生の上にあったもので、母との大切な思い出の中に登場する。その記憶の断片はまた、作品の終わり近くでバンクスが母と思しき女性と会ったときに蘇ってくるものでもある。