リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年11月17日更新分(1/3)

《第27問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公バンクスが上海で暮らしていた幼少期に彼の友人であった日本人少年の名前は、次のうちどれか。

正解

不正解

解説

 バンクスが上海で暮らしていたころ、彼の家と生垣で隔てられた隣家に住んでいた友人がアキラである。同い年の二人はお互いの家を行き来しながら、自分たちで作った延々と続く劇を演じたり、探偵ごっこなどをして遊んでいた。後年彼が上海を訪れる目的の一つは、この旧友を探すことでもあった。
 長崎出身の彼の家には、“擬似”和室があり、またバンクスが両親の不仲を心配していると、「きみにはイギリス人らしさが足りないんだよ」(1)と忠告する。そして自分自身も日本人らしさが足りないと気に病んでいる。まるで一心同体であるかのようなこの二人は、日本からイギリスに渡った作者自身の分裂した姿をそれぞれ体現しているかのようでもある。
 イシグロはあるインタビューで、自分には「送るべきだったのと違う種類の人生を送ってきた―つまり日本で成長して日本人にならずに、何か別の人間になってしまったという気持ち」があると告白している(2)。あえて単純化を恐れずに言えば、ここには日本とイギリスの間で引き裂かれた、彼のアイデンティティーの問題が表出しているように思われる。
 物語の終盤、両親救出のために向かった危険な交戦地帯で、バンクスは傷ついた日本兵に出会う。彼はそれをアキラだと信じて助けようとする。現実感の希薄なこの場面は、あたかもバンクス自身の壊れた精神の内奥で、両親だけでなく、幼年時代に置き去りにされたままの自己の半身を取り戻そうとしているかのようであり、とりわけ痛切に心に迫るものがある。
 ちなみにアキラの姓はヤマシタ。彼には4歳年上のエツコという姉がいる。b はもちろん作者自身の名であるが、それはまた長編第一作『遠い山なみの光』の語り手エツコの知り合いである、フジワラさんの長男のものでもある。 cはイシグロの父親の名前である。

(注)
(1) Ishiguro, Kazuo. When We Were Orphans. London: Faber & Faber, 2000. 72.
(2) Wachtel, Eleanor. More Writers & Company: New Conversations with CBC Radio’s Eleanor Wachtel. Toronto: Vintage Canada, 1997. 34.

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