リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年11月10日更新分(1/1)

《第26問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公であるバンクスが、両親失踪の謎を探るべく上海へ向かうのはいつか。

正解

不正解

解説

 バンクスが上海の共同租界で暮らしていた幼年時代、彼の父が突然姿を消してしまう。その後母も行方不明になり、孤児となったバンクスはイギリスの伯母のもとへ引き取られる。彼は学業を終えると、かねてより憧れていた探偵となり、自身いわく、いくつもの大きな事件を解決して実績を積み、1937年、ついに両親失跡の謎に挑むべく上海へと向かうのである。
 本作第4部は「1937年9月20日 上海、キャセイ・ホテル」と題されているのだが、それは折しも日中戦争の最中。上海に着いて二日目の夜、あるホテルの最上階で開かれたパーティーに出席したバンクスは、近くで轟く砲弾の音に不安を隠せない。しかしそこにいる人々の態度はさらに彼を驚かせる。彼らはまるでショーを見物するかのように振る舞う。
 ある男はバンクスに「砲弾は、我々の頭上を弧を描いて川の向こう側に落ちるんですよ。暗くなったらなかなかの見物ですよ。流れ星を見ているようで」と語り、また続けて別の誰かが「バンクスさん、これをお使いになりますか」と言って彼にオペラ・グラスを差し出す。その無責任で傍観者的な態度に、バンクスは嫌悪感を覚えるのである。
 彼らにとって戦争が現実離れしているというだけでなく、このあたりで物語の世界が非現実的なものに変わりつつあるのを、我々読者は感じ取ることができるだろう。いやそれは作品の冒頭から、バンクスの意見と周囲の観察のあいだにあるいくつかの齟齬といった彼の一人称語りの中に、すでに胚胎していたということだったのかもしれない。
 

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ちなみに1番の1923年は第1部の7年前であり、それはこの物語の回想が始まる、バンクスがケンブリッジ大学を卒業した年であり、3番の1954年は作者イシグロ自身が長崎で生まれた年である。物語の最終第7部は1958年と設定されており、この作品自体は20世紀の終わり2000年に発表されている。

1 Ishiguro, Kazuo. When We Were Orphans. London: Faber & Faber, 2000. 160.

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