リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2016年09月22日更新分(2/2)

《第74問》
『ロミオとジュリエット』が初出とされてきた「無駄骨」や「宛てのない追及」を意味する英語慣用句 ‘wild-goose chase’ が出てくるのは誰の台詞か。

正解

不正解

解説

第二幕第四場五九行のマキューシオの台詞に ‘if our wits run the wild-goose chase, I am done’(「駄洒落合戦はもう止めだ。」(松岡訳))とある。‘wild-goose chase’ とは、元来は一頭の馬があてもなく走ったその後を他の馬で追う(つまりは雁の群れの飛び方を真似た)鬼ごっこのような遊びを意味したが、現在では、比喩的に「無駄骨」や「宛てのない追及」の意味で使用される。

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サミュエル・ジョンソンが『英語辞典』(1755)でマキューシオのこの台詞を引き、「野生の雁のように捕まらないもの追うこと(A pursuit of something as unlikely to be caught as wildgoose)」と定義したのは有名であり、『研究社英語辞典(第五版)』もそのことを紹介している。
英語の慣用表現には、OEDではシェイクスピアの作品が初出とされるものが多く、新出の単語だけを拾ってもその数は約1,500例、語法もわせるとその他に7,500例が挙げられるという。OED がシェイクスピア作品から引いている単語の使用例が33,000以上に上ることも視野に入れると、シェイクスピアは近代英語の祖、本家本元であるようにさえ見える。大学の英文科などでは伝統的にそのように教わるものである。
  しかし、今では、そのような言語史観には若干の修正が必要である。EEBO(Early English Books Online)をはじめとする近代初期の英文献コーパスがパソコン上で利用できるようになったことで、現在では、OEDが挙げていない用例を容易に検索することが可能であり、シェイクスピア研究ひいては英文学研究に革命をもたらしつつある。メルボルーン大学のシェイクスピア研究者デイヴィッド・マッキニス(David McInnis)氏のWeb記事(‘To be or not to be . . . original’ [https://pursuit.unimelb.edu.au/])によると、‘wild-goose chase’ はシェイクスピアよりも前に詩人・作家ジャーヴェス・マーカム(Gervase Markam)が少なくとも六回使用しているという。同様に『ジュリアス・シーザー』(1.1.284)が初出とされる「さっぱり分からない」を意味する ‘Greek to me’ など多くの慣用句にも先例が見つかるという。マッキニスのこの記事を『デイリー・テレグラフ』(2016年9月5日 Web版)は 「シェイクスピアは多くの成句を生み出したというのはよそう――彼はそのほとんどを盗用(cribbed)した、とオーストラリア人研究者が主張」という過激な見出しをつけて、『ガーディアン』(2016年9月6日Web版)は「遊戯は終わった――シェイクスピアの言葉は辞書が考えるほど独創的ではかった」という見出しをつけて紹介し、本国では物議を醸しだしている。

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