《第73問》
ジュリエットがまだ幼かった頃、ヴェローナが地震に見舞われたとき、ジュリエットはどこにいたと語られているか。
正解
不正解
- 屋敷の大広間
- 鳩小屋の傍
- 屋敷の厨房
- 屋敷の大広間
- 鳩小屋の傍
- 屋敷の厨房
- 解説
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第一幕第三場十七-四十九行の乳母の長台詞に答えが見つかる。十一年前に地震が起った日、鳩小屋の壁(dove-house wall)の傍で乳母はジュリエットに乳離れを促していたという。乳母の乳房に塗られたニガヨモギの汁をジュリエットが舐めたちょうどそのとき、鳩小屋が揺れたので、乳母は一目散に逃げたと語られている。
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鳩(dove)が愛(love)と韻を踏むことから、英文学では鳩はよく象徴的に愛や恋人を意味することは指摘するまでもないだろう。しかし、そうした象徴性に加え、チューダー朝時代の感覚に立ち帰るなら、鳩は富や権力の象徴でもあった。鳩やその卵は身分ある者だけが食すことができる高級な食材であったし、鳩の糞も最高級の肥料とされた。ストラットフォード・アポン・エイヴォンにあるメアリー・アーデン(シェイクスピアの母)の実家とされてきた屋敷にある農場――パーマー家という家族が所有したものと考えられることから現在では「パーマー家の農場(The Palmer’s Farm)」と呼ばれている――には、長方形の壁一面に石灰石を練って造った六五〇個の巣箱が埋められた巨大な鳩小屋が遺されていて、その観光名所の見所の一つとなっている。鳩小屋の案内板には、
「かつて鳩の飼育は領主かもしくは聖職者のみに許されていたことから、この鳩小屋あるいは鳩の巣箱はパーマー家がそのような地位を有していたことを裏付けている。」
と書かれている。テクストの「鳩小屋」のくだりは現在では見落とされがちな些細な情報ではあるが、これも初演の頃の観客にとって(あるいは当時この芝居本を読んでいた読者にとって)は、キャピュレット家の威厳(dignity)を示唆する重要な情報であったと推測される。
また、シェイクスピアの時代には、食材としての鳩の肉には催淫薬の効果があるとも信じられていたようで、例えば、『トロイラスとクレシダ』には「鳩ばかりを食べると、血が熱くなり、頭が煮えたぎり、熱い行為に走る」(3.1.125)などという台詞がある。もしかすると、貴族的な身分を手にした豪商キャピュレット家の豊かな食生活が後にみるジュリエットの「熱い行為(hot deeds)」を育んでいたと読めるのかもしれない。