《第22問》
『日の名残り』からの問題。執事の管理する食器室(pantry)にミス・ケントンが入ってきたときにスティーブンスが読んでいたのは次のうちのどれか?
正解
不正解
- 恋愛小説
- 手紙
- 旅行ガイドブック
- 恋愛小説
- 手紙
- 旅行ガイドブック
- 解説
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執事の管理する食器室は、スティーブンスに言わせれば、執事に許された唯一のプライベート空間である。プロ意識から解放されたスティーブンスが食器室で読んでいたのは恋愛小説であった。不意に入ってきたミス・ケントンは、スティーブンスが本を隠そうとしたのを見逃さず近づいてくると、本を握りしめるスティーブンスの指を一本一本はがすようにして本を取り上げる。その描写は恋愛小説の一場面のようである。「突如まわりの空気が奇妙に変化した――まるで私たち二人が別世界に突然押し込まれたかのようだった」(Remains P175)。
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*括弧内の数字はページを表す。結局、読んでいた本が恋愛小説だとミス・ケントンに知られてしまうのだが、面白いのはスティーブンスが当時を振り返って弁解する内容である。恋愛小説を読んだのは言葉遣いを磨くためだったと言う。果たせるかなここで再びprofessionalが登場する。「よい発音と言葉遣いが業務上(プロフェッショナル)望ましい(the professional desirability of good accent and command of language)」(P176)から、というのが彼の言い分である。しかし、これが苦しい言い訳に聞こえるのは、「よい発音や言葉遣い」が執事の具えるべき品格とは無関係なものであるとスティーブンス自身が語りの前半で述べているからである(35)。したがって、スティーブンスの言い訳は、さながらプライベートな(恋愛)感情が露わになり慌ててプロ意識のスーツを着込んだ例だといえよう。