《第19問》
『充たされざる者』に登場するブロツキーとミス・コリンズとの関係は?
正解
不正解
- 父と娘
- 元夫婦
- 音楽家仲間
- 父と娘
- 元夫婦
- 音楽家仲間
- 解説
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長年町に住んでいる老人ブロツキーは名指揮者として賞賛されていたこともあった*1が、今では見る影もなく落ちぶれ、たちの悪い飲んだくれとして町の人びとからも煙たがられている。そしてかつては彼と夫婦関係にあったミス・コリンズも、ずいぶん前に彼に愛想を尽かして彼のもとを去っている。『充たされざる者』における他の登場人物と同様、ブロツキーにも語り手ライダーの感情が投影されており、年老いた彼には現在ピアニストとして絶頂期にあるライダーが心の奥底に抱える、音楽家として衰えてゆくことへの不安が託されているのだと見ることもできる*2。
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*1 ブロツキーは過去にポーランドに滞在していたこともあると述べられている(P313)
*2 Lewis, Barry. Kazuo Ishiguro. Manchester: Manchester UP, 2001. p.113.
*括弧内の数字はページを表す。音楽に対する情熱をほとんど失いかけていた彼は「木曜の夕べ」の開催をきっかけに一念発起して参加を決意し、猛烈に練習に打ち込むようになるのだが、その原動力の一つがコリンズとの関係を修復したいという思いであった。ブロツキーは今でもコリンズを愛しており、彼女と肉体関係さえ持ちたがっていることをライダーに語る(P309)。だが、彼は同時にコリンズという存在が「慰め」(consolation)にしかすぎないことも自覚している。「彼女は音楽のような存在だ。一つの慰め。すばらしい慰めだ。まさにそれこそ私が望むものだ。一つの慰め。だが、傷を癒やしてくれるだろうか?」(P313)
実は、彼の言葉に現われる「傷」という言葉はブロツキーの言動を理解するための重要な鍵となるのだが、それはまた後に取り上げることにしよう。