《第17問》
『充たされざる者』でホテルのポーター、グスタフの娘ゾフィーがライダーと会った時に彼に提案することは?
正解
不正解
- 二人が一緒に住む家を見てほしい
- 彼のサインがほしい
- 自分のアルバムを見てほしい
- 二人が一緒に住む家を見てほしい
- 彼のサインがほしい
- 自分のアルバムを見てほしい
- 解説
-
ライダーは滞在しているホテルで働くポーターのグスタフに頼まれ、彼の娘のゾフィーとその息子ボリスに会いに行く。ライダーは彼女と初対面という認識を持っていたが、ゾフィーは彼に会うなりライダーも含めた三人で住むのによい家が見つかったので、一緒に見に行って欲しいと告げる(P34)。それ以後二人は夫婦のようなやりとりを交わし、ライダーとボリスも父と息子のような関係を結ぶ。一見唐突に思われるが、実は初めて訪れる町の人びととの関係の随所にはライダー自身の現在、過去、未来が投影されている*1。幼いボリスの姿はライダーの「過去の亡霊」でもある*2し、ゾフィーとの関係には、演奏のために世界を飛び回って家を空けてばかりいるライダー自身の夫婦関係が暗示されている。つまり、『充たされざる者』の街全体がライダー自身が抱える関係を多面的に反映したものなのである。
より詳しい解説を読む
----------------------
*1 この点についてはハヤカワepi文庫版『充たされざる者』(古賀林幸訳、2012年)の解説、Barry Lewis. Kazuo Ishiguro (Manchester UP, 2001)などが参考になる.
*2Lewis 120ちなみにc)の「アルバムを見てほしい」というのは、ホテルの支配人ホフマンの妻がライダーのファンで彼の記事をスクラップしたアルバムを見てもらいたがっていることと関係している。これ以外にもライダーは他の人びとからも様々な頼まれごとをされ、町をさまよってゆく。そうした彼の様子を移動が多く、断片化および多層化した現代社会に暮らす我々の不安定な状態を表現したものと見る論者達がいることも付記しておく。