リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年03月31日更新分(1/1)

《第9問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公クリストファー・バンクスの職業は次のうちのどれか?

正解

不正解

解説

この作品は、主人公バンクスによる親探しの物語である。彼が上海の共同租界で暮らしていた少年時代に、まず父が突然姿を消してしまう。その後母も行方不明となり、10歳で孤児となったバンクスは、イギリスの伯母のもとに引き取られる。長じてケンブリッジを卒業し探偵となった彼は、両親の謎の失踪を調査すべく上海へと舞い戻るのである。
この物語がおもに展開される1930年代、イギリスでは、アガサ・クリスティー(1890-1976)やドロシー・セイヤーズ(1893-1957)といった作家たちの探偵小説が、非常な人気を博していた。それらの作品では、ある平穏で完結した世界に殺人などの事件が起こる。そのとき外部から探偵が現れ、犯人を探し出して事件は解決され、元の秩序が取り戻される。

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現実には悪とはそれほど単純なものではないし、一人の探偵によって世界が元通りになるというわけではないだろう。しかし本作品ではイシグロ自身が、「私はこういった方法でいまだに悪と対峙できるという考えを持っている、そんな探偵を現代の世界に解き放つイメージを持っていました」*と語るように、彼はあえてそうした小説の枠組みを参照している。
つまりこれはある批評家の言葉を借りれば、「古典的探偵小説というジャンルのパロディー的利用」というものである。本作の主人公バンクスは拡大鏡を片手に動乱の上海に乗り込み、彼自身の理想の追求と秩序の再建を目指す。彼は両親を救い出し事件を解決することが、世界全体の秩序を取り戻すことになると信じているのだ。
そのあまりにも無垢な子供のような夢想は、失われた幸福な少年時代を取り戻したいという、バンクス自身の痛切な願望でもあるのだ。

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*Mackenzie, Suzie. “Between Two Worlds.” Guardian. (25 March, 2000). 17.

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