《第42問》
一般動詞の疑問文ではなぜ do が使われるのでしょうか。
正解
不正解
- 意味を強調するため
- SV の語順を維持するため
- 肯定文と区別するため
- 意味を強調するため
- SV の語順を維持するため
- 肯定文と区別するため
- 解説
-
これまで発音と形態について考えてきましたが、これからしばらくは、文法と意味を中心に疑問な項目を一緒に考えたいと思います。
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そこで今回の問題ですが、助動詞 do の出現は英語の基本的な語順 SVO によるのです。現代英語で do が使われるのは次の場合です。
(1) Mary did not stay at home.
(2) Did Mary stay at home?
(3) Mary did stay at home.
つまり、否定文の do(例文(1))、疑問文の do(例文(2))、強調の do (例文(3))です。このような do は英語の初期の段階では存在しませんでした。ここでは (1) と (2) についてのみ説明します。
これらの do は本来は使役動詞の do(= cause)だったのです。古い英語には次のような例文があります。
(4) He dede John sadillyn an-oder hors.
[he caused John to saddle another horse]
「彼はジョンに他の馬に鞍を着けさせた」
現代英語訳で明らかのように、「dede (=caused) + John (目的語) + sadillyn (= to saddle)」という構造になっています。ところが、この目的語が不定名詞(句) [例えば、someone、everyoneなど] の場合は、現代英語の hear (people) say (例えば、I've heard say that he is a famous painter.「聞くところでは彼は有名な画家だそうだ」)のように、不定名詞が省略されました。次の14世紀のチョーサーからの例を見てみましょう。
(5) Now hastily do (someone) fecche a book.
[Now hastily cause (someone) to fetch a book] (Chaucer The Canterbury Tales,
The Man of Law's Tale 662)
「急いで書を持ってきてくれ」
(5)のような構文では、例えば、主人が家臣、召使などに命令などによってある行為をさせるという状況ではしばしば用いられました。この時点で (5) の構文は、次のように do とその後の不定詞 fecche が隣接する構造となります。
Now hastily do fecche a book.
こうなるともはや do は使役動詞としての役割を失います。その結果、
Now hastily fecche a book.
となり、do は完全に消滅します。しかし、(4) のような不定名詞(句)ではない John の場合はやはり do が必要になります。ところが do は使役動詞としての機能を失っていますので、すでにあった make や let が使役動詞として使われることになります。
これによって do は本来の使役の役割を果たさなくなりますから、「無職」になり完全に英語から消えたはずです。でも「再就職」のチャンスがやってきます。古英語から初期近代英語までは、次のような疑問文が使われていました。
(6) Canst þu temian hig?
[Know you how to tame them?] (Ælfric's Colloquy 31 / 129)
「彼らを服従させる方法を知っているか?」
(7) Gaf ye the chyld any thyng?
[Gave you the child any thing?] (Townely Plays 134 / 571)
「その子供に何か与えたか?」
(8) Think you to walk forth? (Shakespeare Julius Caesar 2.2.8)
「お出かけになるおつもりでは?」
上記の(6)、(7)、(8)とも語順が VS となっています。ところが、11世紀頃から英語は屈折語尾が消失し始め、SVO という語順が一般的になってきます。この SV の語順にするために、一度「職を失った」 do に再び出番がやってきたのです。つまり、何の語彙的意味も持たず単なる文法的機能だけを示す do を用いることで SV という語順が保たれることになるのです。例えば、(8) は do を使うことで次のようになります。
Do you think to walk forth?
v S V
Do をスモール v で示したのは、この do は以前のような語彙的意味を持たない文法的手段としての do だからです。これは疑問詞を用いている場合も同じです(ただし、be動詞の場合は別)。
Hwæt sægest þu? → What do you say?
[What say you?] → v S Vもう一つ、否定文ではなぜ do が使われるのかという問題があります。次の変化を見てみましょう。
11世紀頃 Ic ne cann þæt.
14世紀 I ne knoue not that.
15世紀 I know not that.
本来の否定語は ne であり not はこの ne を強めるために使われていました。ところが、やがて ne は強く発音する語でないため消滅し not のみとなりました。これが11世紀から15世紀の変化の流れです。
Do の導入は15世紀後半から16世紀と考えられています。なぜ do が必要となったかと言いますと、やはり語順の影響です。次の変化を見てみましょう。
I know not that. → I do not know that.
V not O V O
つまり、動詞の know と目的語の that の間に否定語 not があると、動詞と目的語が離れるため、できるだけ VO の語順に近づけようとして do を用いたのです。