《第6問》
『遠い山なみの光』の語り手エツコ・シェリンガムの次女ニキについての記述のうち正しいものはどれか?
正解
不正解
- ニキはエツコのかつての夫オガタ・ジロウの子であり、現在は日本に住んでいる。
- ニキはエツコの亡き夫シェリンガムの子であり、現在はロンドンに住んでいる。
- ニキは自殺した日本人の姉ケイコとは血の繋がりはなく、容姿も似ていない。
- ニキはエツコのかつての夫オガタ・ジロウの子であり、現在は日本に住んでいる。
- ニキはエツコの亡き夫シェリンガムの子であり、現在はロンドンに住んでいる。
- ニキは自殺した日本人の姉ケイコとは血の繋がりはなく、容姿も似ていない。
- 解説
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オガタ・ジロウの子として長崎に生まれたのは自殺した長女のケイコ。この小説の冒頭において、ニキは、語り手(エツコ)にとって「私の下の娘(my younger daughter)」(P9)*1であり、かつ「彼女の父親(her father)」(P9) の娘であると語られ、ケイコは「ニキとは違い、生粋の日本人であった」(P10)と語られている。さらに読んでいくと、ニキはシェリンガム*2 という英国人ジャーナリストとエツコの子であることがわかる。ケイコとニキは母親を介して血が繋がっていて、二人にピアノを教えていた隣人(ウォーターズ夫人)にとっても区別がつかないほど容姿の似た姉妹である(P50)。つまり、二人は、母エツコと容姿がよく似ている。ニキは現在、未亡人となった母のもとを離れてロンドンで生活している。
より詳しい解説を読む
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*1 テクストはKazuo Ishiguro, A Pale View of Hills, 1982, London: Faber, 2005。(1982年の初版以降、本文に関してはページのレイアウトも含めて変更はないので、どの版でもページ番号は同じになる。)
*2 姓名がシェリンガム(Sheringham)だと分かるのはp49。
*括弧内の数字はページを表す。姉のケイコは母エツコが語らぬ過去――すなわち、母が長崎を去り英国へ移住した経緯――をよく知っていたが、ニキは知らない*3 。雨降る4月の憂鬱な季節 *4に、彼女がロンドンから帰省した目的の一つは、母の過去について真相を知り、そして姉の自殺について自分自身を責め苛む母に心の治癒を促す術をさぐることであったと推測される。
いずれにせよ、エツコの語りの中で、ニキの存在は最も重要な要素の一つである。それゆえにこの小説の語りはニキで始まり、そしてニキで終わっている。ケイコと(そしておそらく過去の自分とも)よく似たニキが残していった印象を媒介として、これまで封印してきた過去への遡行が始まろうとしているように読める。
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*3 “[Niki] has little idea of what actually occurred during those last days in Nagasaki” (90) とある。
*4 T. S. エリオットの詩「荒地」でうたわれるように、英文学では4月は長雨の憂鬱な季節として表象される。しかし、ジェフリー・チョーサーの『カンタベリ物語』のプロローグでうたわれるように、3月の乾いた土地を湿らせ春への変化をもたらす季節でもあることは意識しておきたい。