《第67問》
『ロミオとジュリエット』に登場する僧ロレンスと同じ名前の修道士がでてくる(より正確にいうと舞台に登場はしないが言及される)芝居はどれか?
正解
不正解
- 『十二夜』
- 『ヴェローナの二紳士』
- 『じゃじゃ馬ならし』
- 『十二夜』
- 『ヴェローナの二紳士』
- 『じゃじゃ馬ならし』
- 解説
-
『ヴェローナの二紳士』第五幕第三場の大公の台詞の中で、一度、「僧ロレンス」(Friar Laurence)という人物への言及がある。この人物は、失踪したシルヴィアとエグラモーであると思しき二人を修業中に目撃した人物として言及されている。テクストにたった一度、「僧ロレンス」という名前がでてくるだけなら、それは些末的なこととして無視すべきことであろう。しかし、『ロミオとジュリエット』と『ヴェローナの二紳士』には筋の展開、舞台空間の使用方法、地理的設定、さらには言語レベルにおいて類似する点が多いということ、そして、二つの芝居が上演されていた年代も同時期であったことを考えると、このような些細な情報も、両作品を読み解く鍵となる可能性はある。
より詳しい解説を読む『ヴェローナの二紳士』で言及される「僧ロレンス」が、森の中で修業をしていた(5.2.36)という事実は興味を引くところである。その「森」は、ヴェローナやマンチュアを追放され盗賊となって生きている人々が棲む領域として表象されている。また、ヴァレンタインとシルヴィア、プローティウスとジュリアを結びつけ、さらに盗賊たちには「恩赦」が与えられるという、神秘的な力が作用する領域として表象されている。つまり、「森」は、ミラノ、ヴェローナ、マンチュアという領地の外に存在しながら、それらの融和を可能にする空間として機能している。そのような領域で修行を続ける修道士として、「僧ロレンス」という人物が存在するのである。
『ロミオとジュリエット』の僧ロレンスは、ヴェローナとマンチュアをつなぐ存在として機能している。追放という判決を受けたロミオをマンチュアへ亡命させる手はずを整えるのはロレンスであり、彼はまた、ジュリエットをマンチュアへ送る計画も立てる。ロレンスにそれが可能なのは、彼が、フランシスコ会の修道士である(問題29解説を参照)からで、モンダギュー家やキャピュレット家の人々のようにヴェローナの統治体制にのみ従属する人間ではないからである。もし、彼のすべての計画が疫病によって頓挫することがなかったなら、彼が執り行ったロミオとジュリエットの結婚が、ヴェローナの内紛を沈め、さらに、マンチュアとヴェローナの経済的融合をも可能にしていたと想像される。つまり、『ロミオとジュリエット』のロレンスは、ヴェローナに土地や財産を有さないフランシスコ会の修道士―つまり領域内における異邦人―でありながら、マンチュアやヴェローナに多大な影響を及ぼし得る神秘世界の住人として表象されているのであり、その点で、『ヴェローナの二紳士』における「森」に所属するロレンスと類似しているといえる。
初演当時の劇場では、「僧ロレンス」という記号は、『ヴェローナの二紳士』と『ロミオとジュリエット』をより密接に結びつける機能性を有していたのかもしれない。