リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2015年10月01日更新分(1/1)

《第60問》
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』には描かれていないが、デイヴィッド・ギャリックの時代から芝居の見どころの一つとして継承されてきた場面で、クッシュマンの『ロミオとジュリエット』(初演、1845年)で消されたものはどれか?

正解

不正解

解説

ギャッリックゆかりの「改良されたシェイクスピア」に違和感を覚えたクッシュマンが、芝居の多くの部分をシェイクスピアの原作通りの形に戻したことは既に述べた。ギャリックが加えた大きな変更点の一つとして、現在の第四幕と第五幕の間に挿入されていたジュリエットの葬列('funeral procession')を描いたシーンがあり、芝居の見どころの一つとしてギャリックの死後も長く継承されていた。1750年版のテクスト(Romeo and Juliet by David Garrick 1750 , Cornmarket, 1969, pp. 58-59)を見ると、第五幕第一場と区分けされたそのシーンは教会の内部が舞台となっていて、葬儀の行列(聖歌隊)がそこに現れ、「葬送歌」合唱する。この葬送歌はギャリック自作の詩に作曲家ウィリアム・ボイス(William Boyce, 1711-79)が曲を付したものである。

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 1748年にギャリックが『ロミオとジュリエット』を初めて舞台にかけた頃から1750年9月頃までは、葬列のシーンはまだ存在しなかった(George C. Branam, 'The Genesis of David Garrick's Romeo and Juliet', Shakespeare Quarterly, vol 35, no 2 (Summer, 1984), 170-79, 178)。しかし、1750年9月28日、コヴェント・ガーデン劇場でバリーとシバーの演じる『ロミオとジュリエット』が、当代の名音楽家トマス・アーン(Thomas Augustine Arne, 1710-78)が曲を付け「歌詞はシェイクスピアによる」('the words from Shakespeare' とその時のチラシが謳っている(*) 「謹厳なる葬送歌」('Solemn Dirge')を加えて芝居を飾った。彼等に客を奪われることを怖れたギャリックはこれに対抗し、自ら筆を取りより優れた「葬送歌」を作詞し、ウィリイアム・ボイスの曲を付けて同じ場面を脚色したのである。こうして1750年10月1日、新しい葬儀のシーンが加えられた「ギャック版『ロミオとジュリエット』」が最初に上演されたのであった。
 シェイクスピアのテクストでは、ジュリエットの葬儀は観客/読者の想像の中でのみ起こる。宗教色を漂わせる結婚式が舞台では演じられないように、葬儀もまたシェイクスピアの時代には舞台にはかけにくかったと考えられる。ギャリックの時代には事情は異なっていたので、「『ロミオとジュリエット』戦争」の中で生じたこの思いつきも「改良」の一つと考えらえたのかもしれない。

*これは真実ではなく、シオフィラス・シバーの手になるものであったと考えられている(Charles Haywood, 'William Boyce's "Solemn Dirge" in Garrick's Romeo and Juliet Production of 1750', Shakespeare Quarterly, vol 11, no 2 (Spring, 1960), 173-87, 174)。

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