リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2017年02月16日更新分(1/1)

《第38問》
『わたしを離さないで』のキャシーらがコテージ(Cottages)というファーム・ハウスに住むようになってしばらくすると、先輩のカップルにヘールシャム(Hailsham)にまつわる、ある噂の真相を訊ねられる。それは、ヘールシャム出身であるカップルが愛し合っていることを証明すれば、何かがもらえるというものであった。それは何か。

正解

不正解

解説

キャシー、ルース、トミーら三人は、「先輩」カップルである、ロドニー(Rodney)とクリッシー(Chrissie)からあることを訊ねられる。それは、二人がウェールズに出かけた際に耳にした、ある噂についてであった。「昔、ヘールシャム出身の学生が、ある特別な状況にあることを証明したら、猶予(a deferral)がもらえたと聞いたんだ。ヘールシャム出身の生徒だったらってことなんだけどね。三年、いや四年ほど猶予期間を願い出ることができたって。もちろん、簡単じゃなかったらしいけど、もらえたらしいんだ。その資格があれば、彼らを納得させることが出来れば。」(150)ここでいう「特別な状況」とは、カップル同士が心底愛し合っているという状況を指す。キャシーは、コテージで何度か先輩らがこの話題について話し合っているのを知っていた。直接的には聞いてはいないが、噂をしているところへキャシーが近づくと、急に彼らが静かになったりするなど妙だと薄々感じていたのである。この薄々感じているが直接問いただしたり、話題にしたりしないというのは、キャシーらがヘールシャムにいた頃にルーシー先生に言われた、「伝えられているようで伝えられていない “[Y]ou’ve been told and not told.” (79)」の状態に通じるものである。
実は、イシグロはインタビューで次のようなことを言っている。「原作の根底にあるものは、なぜか非常に日本的だと以前から感じてきました。私はほかに日本を舞台にした物語も書いているんですが、それら以上にこの作品は、イギリスが舞台なのに、どこか日本的なんです。」1) これは、相手を傷つけまいと配慮するあまり、ことをはっきりとさせずに曖昧のままにする日本人の感覚とキャシーらの曖昧性は似ているということなのだろうか。真相はいかに。

Ishiguro, Kazuo. Never Let Me Go, London: Faber and Faber, 2005.
1) 「平成の原節子、世界的作家に会いに行く」文藝春秋、第94巻、第2号、2016年2月1日、p.214。

戻る 終了