リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2015年04月30日更新分(3/3)

《第33問》
第三幕第一場の殺傷シーンでマキューシオとティボルトは死んでしまうので、当然のことだが、二人はその後、舞台に登場しなくなる。しかし、第三幕第二場以降、生きてはいるが舞台に登場しなくなる人物がこの二人以外にもいるが、それは誰か?

正解

不正解

解説

 第三幕第二場以降、ベンヴォーリオは登場しない。もちろん、演出家の判断で、最終場面などに台詞を発しない登場人物の一人としてベンヴォーリオを登場させることは可能であろうし、そのような演出も実際によくある。しかし、テクストに従う限り、第三幕第二場以降の場面には、ベンヴォーリオの登場を示唆する台詞もト書もないのである。

より詳しい解説を読む

 シェイクスピアの芝居では、前半で重要な役割を演じていた登場人物が後半に登場しなくなる例が他にもある。『リア王』に登場する道化がその一例である。前半において大きな存在感を有していた道化は、第三幕第六場のいわゆる「嵐の場面」以降にはまったく登場しなくなり、言及もされない。『リア王』の「嵐の場面」は、芝居が喜劇的モードから悲劇的モードへと急変化する重要な場面でもあることから、この場面における道化(すなわち喜劇的空間の象徴である人物)の「退場」は深い意味を持つと考えられる。一方、芝居の前半には登場しない人物が後半のみに登場し、プレゼンスを増してくる例もある。『ハムレット』の第五幕第二場以降に登場する宮廷人オズリックがその一例である。第三幕第四場においてハムレットに殺害されるポローニアスに代わる廷臣として登場するこの人物は、初演の舞台では、ポローニアスを演じていた同じ役者がダブル・ロールで演じたかもしれない。しかし、その衣装や所作は、ポローニアスのそれとは一八〇度異なり、デンマーク宮廷における趣向の変化を象徴している。
 『ロミオとジュリエット』におけるベンヴォーリオの「退場」にも何らかの象徴的意味が込められていると考えて間違いないだろう。ベンヴォーリオは、その名が ‘good will’ ないしは ‘benevolence’ を意味し、「暗雲が立ち込めるヴェローナという時空において、異彩を放つ人物の一人として描かれている」ことはすでに述べた通りである。ベンヴォーリオの退場は、一つには、ヴェローナというフィクションの時空に立ち込める暗雲が後半においてより支配的になっていることを象徴しているのだろう。第三幕第一場は、芝居が喜劇から悲劇へ、明の世界から暗の世界へ、急変する重要な場面である。この場面を境としてベンヴォーリオが登場しなくなるという事実は、注目に値する。
ちなみに、ベンヴォーリオが登場しなくなった世界には、ロミオを崩壊へと導く薬屋が登場する。暗の世界の住人である薬屋は、ベンヴォーリオとはシンメトリーの関係にあるようにも見える。

戻る 終了