リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年11月24日更新分(3/4)

《第32問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公バンクスが、両親を救出するために向かった危険な住宅密集地域から助け出されたあとに出会った日本人大佐は、特に好きな作家としてあるイギリスの小説家の名前をあげる。それは次のうちどれか。

正解

不正解

解説

 バンクスは両親を救出しようと、戦闘中の危険な住宅密集地域へ足を踏み入れるが、その目的を果たすことはできず、日本軍の兵士に助け出される。その後彼の応対をした長谷川大佐が、「イギリスはすばらしい国です。・・・静かで威厳があって。・・・わたしは特にディケンズが好きでしてね」(1 )と語るのである。
 これらの言葉自体は、イギリス人のバンクスに対して、大佐が社交辞令的に述べたにすぎないように思われる。しかしディケンズの名前はこの作品にとって、それなりの意味を持つものと解することができるだろう。それはバンクスの両親、特に母親失踪の謎と、ディケンズのある作品の展開に大きな共通点が見られるからである。
 バンクスの母親が行方不明になったのは、彼女が中国のマフィアに売られたからであり、その見返りとして相当の金銭が支払われていたのである。それはディケンズのあの代表作『大いなる遺産』を髣髴させる。本当にその「大いなる遺産」の上にバンクスの人生が築かれていたとすれば、それは彼にとって衝撃的な事実であったに違いない。
 1番は言わずと知れたイギリスの文豪であるが、その名前が本作で言及されることはない。2番は大佐が彼女の代表作、『嵐が丘』の名を挙げるが、作者には触れていない。さらにここで彼はウィリアム・サッカレーの名前も挙げている。ほかにこの作品では、コナン・ドイルやウォルター・スコットの『アイヴァンホー』といった名前が見られる。

(1) Ishiguro, Kazuo. When We Were Orphans. London: Faber & Faber, 2000. 276.

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