リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年11月24日更新分(2/4)

《第31問》
『わたしたちが孤児だったころ』の主人公バンクスは、幼少期にどのようなニックネームで呼ばれていたか。

正解

不正解

解説

 バンクスは幼いころ、両親や彼が敬愛するフィリップおじさんから、パフィンという愛称で呼ばれていた。パフィンとはツノメドリのことであり、またニューファンドランドでは、ネズミイルカやゴンドウクジラを指す。さらにそれは出版社大手のペンギンブックスが刊行する、児童向けペーパバックの登録商標でもある。
 バンクスがなぜそのように呼ばれていたのかという説明はないが、くちばしの大きなこの愛嬌のある鳥のイメージと彼の容姿とのあいだに、一定程度重なる部分があったのであろうとは容易に想像できる。またそれは上海で暮らしていた幼年時代、彼が父母や周囲の大人たちからいかに愛されていたかを示す言葉でもある。
 幼友達のアキラはバンクスのことを、「クリストファー」とファーストネームで呼んでいた。そして孤児となってイギリスの伯母のもとに引き取られてからは、彼は周りの者から「バンクス」とファミリーネームで呼ばれていた。また養女のジェニファーは彼に「アンクル・クリストファー」と呼びかける。
 このようにいくつもの呼称で名指されてきたバンクスだが、物語の終わり近くで彼が母と思しき女性に会ったとき、精神の錯乱したその彼女に対し、彼は大人になった自分のことを「お母さん。パフィンですよ。パフィン」(1)と名乗るのである。それは母にとってだけではなく、バンクス自身がいつまでも子供時代の「パフィン」のままであったということかもしれない。
 1番はアキラが、あるとき「オールド・チャップ」(「やあきみ」)と言うべきところを間違えて使った表現であり、2番はバンクスのファーストネームであるクリストファーの一般的な愛称であるが、彼がそのように呼ばれることはない。ちなみにイシグロ自身は「イッシュ」(“Ish”)と呼ばれることがある。

(1) Ishiguro, Kazuo. When We Were Orphans. London: Faber & Faber, 2000. 305.

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