リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2015年05月14日更新分(2/3)

《第35問》
劇中で三度言及される僧ロレンスの教会の名前は何か?

正解

不正解

解説

新ケンブリッジ版のテクストに従えば、第三幕第五場の一一四行目、一一六行目、そして、一五四行目で 'Saint Peter’s Church' という名が言及される。ペテロ(Peter)という名に因んだ教会の存在が、シェイクスピアの劇世界においてどのような意味を有していたのか定かでないが、シェイクスピアが何らかの意図をもってこの名を観客の記憶に鮮明に焼き付けようとしたことは確かである。

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当時の観客には、(現在のバチカン市国にあるカトリックの総本山)サン・ピエトロ大聖堂が連想されたかもしれない。当時は、ラファエロ、ロマーノ、ミケランジェロといったルネッサンス芸術の巨匠達がその礎を築いた聖堂の再建が、進行の途上にあった。あるいは、十六世紀半ばにイスラエルのテルアビブヤッファ(Tel Aviv-Jaffa)に、かつてペテロがこの地を伝道の起点としたことに因んで建立された聖ペテロ教会が連想されたかもしれない。これは、フランチェスコ修道会の教会である。いずれにせよ、'Saint Peter’s Church' という名は、十二使徒の一人であるペテロの名を冠する教会である。
 しかし、第三幕第五場一一六~一一七行目で、ジュリエットが、'Now by Saint Peter's Church and Peter too, / [Paris] shall not make me there a joyful bride' (イタリックは筆者)というとき、Peterはペテロを指すと同時に、舞台上においてそれまで強い存在感を有していた道化ピーターのことも同時に指す。観客の視点に立つなら、後者の人物像の方がより前景化されるであろう。つまり、カトリック信徒が聖人と崇める人物を道化ピーターの名と重ね合わせることで、そのイメージを戯画化し、本来その名が表象する筈の宗教色を薄めているようにも見える。
 いずれにせよ、'Saint Peter’s Church' という記号がかつて有していた本来の意味は、現在では失われてしまっている。

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