リベラルアーツ英語検定クイズロミオとジュリエット > 2015年10月22日更新分(1/1)

《第63問》
ロマン派の詩人ウィリアム・ブレイク(William Blake, 1757-1827)の「病んだ薔薇」('The Sick Rose', [1794])は、毛虫が美しい薔薇を喰い滅ぼそうとするイメージを強烈に印象付ける詩として有名であるが、じつは『ロミオとジュリエット』にこの詩を連想させる言葉が見える。それが含まれるのは誰の台詞か?

正解

不正解

解説

ウィリアム・ブレイクの詩集『無垢と経験の歌』(Songs of Innocence and of Experience, 1794)に収録された「病める薔薇」は、このような詩である。

 拙訳)
  病める薔薇よ。
  夜、目に見えぬ毛虫が、
  ヒューヒューという嵐の中を
  飛んできて

  紅に輝く花びらの
  よろこばしいベッドを見つけだし、
  その内に秘めし暗黒の愛で
  君の命を蝕む。

この詩は、教養のある英国人なら誰しも諳んじることができるほど有名であるが、『ロミオとジュリエット』の第一幕第一場で、モンタギューが、憂鬱に沈む息子ロミオの様子についてベンヴォーリオに語る次の台詞の中に、この詩の「原型」と思われるパッセージがあることを知っている人は少ない。

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[Romeo is] to himself so secret and so close,
  So far from sounding and discovery,
  As is the bud bit with an envious worm
  Ere he can spread his sweet leaves to the air,
  Or dedicate his beauty to the sun. (1.1.140-44)

 訳)
  [ロミオは] その胸ひとつに秘密をひた隠し
  探りようも突き止めようもない。
  まるで悪い虫のついたつぼみ同然、
  かぐわしい花びらを風に拡げ
  その美しさを太陽にささげる前に蝕まれてしまう。

毛虫が蕾の薔薇を蝕むイメージに病的な恋に耽溺する若者を重ね合わせるというこの見方は、『ヴェローナの二紳士』におけるプローティウスとヴァレンタインの対話の中にもでてくる。

  PROTEUS Yet writers say 'As in the sweetest bud
    Is eating canker dwells, so doting love
    Inhabits in the finest wits of all.'
  VALENTINE And writers say 'As the most forward bud
    Is eaten by the canker ere it blow,
    Even so by love the young and tender wit
    Is turned to folly, blasting in the bud ...' (TGV, 1.1.42-48)

 拙訳)
  プローティウス しかし、作家達は、「一番美しい蕾に
    それを蝕む毛虫が宿る様に、恋というやつは
    もっとも頭が冴えきった者にこそ宿る」と書いている。
  ヴァレンタイン いや、作家達は、「もっとも早熟の蕾こそ
    花咲かせずして毛虫にやられてしまう様に、
    若くて感受性のある者こそ
    恋で頭がばかになり、花咲かぬうちに枯れしぼみ‥‥ 」とも書いている。

おそらく『ヴェローナの二紳士』の方が『ロミオとジュリエット』より少しばかり早く書かれたであろうから、モンタギューの台詞は、このプローティウスとヴァレンタインの対話を一歩発展させたものであると推測できる。後に書かれた『十二夜』では、ゼザーリオという「男」に扮し、オーシーノー公爵に仕えるヴァイオラが、「女」としてその公爵に寄せる密かなる思いを次のような言葉に託そうとしている。

            [ ... ]. She never told her love,
  But let concealment, like a worm i'th'bud,
  Feed on her damask cheek. (TN, 2.4.109-11)

 拙訳)        彼女はその想いを打ち明けず、
  蕾に隠れる毛虫のような秘めたる片思いに
  薔薇のような頬を蝕ませてしまったのです。

 『ロミオとジュリエット』がブレイクの「病める薔薇」に直接の題材を提供したかどうかは、もちろん定かではでなかい。しかし、ブレイクの詩の「原型」はそこにあるとみて間違いない。「病める薔薇」は、『ロミオとジュリエット』を書いていた頃のシェイクスピアがすでに温めていた主題である。

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