リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年12月08日更新分(1/1)

《第35問》
『充たされざるもの』でライダーがジャーナリストに連れられて写真を撮った場所は? 

正解

不正解

解説

ライダーは「取材用の写真を撮りたい」と声をかけてきたジャーナリストに町の外れまで連れて行かれ、言われるがままにサトラー館(the Sattler monument)と呼ばれる建物の前で写真を撮られる(P182)。それはマックス・サトラー(Max Sattler)という人物を記念して建てられたものであるが、その前で写真を撮らせたことが人びとの間に物議を引き起こす(P200)。ライダー自身はまったく知らなかったことであるが、実はサトラー氏は現在町が置かれている閉塞感をめぐる秘められた歴史の一因と見なされていることが町の人々から後に明らかにされる。
100年ほど前、当時の町の指導者的立場にあったらしいサトラーは、町を大胆に改革しようとした。しかし今から振り返れば「見当違いの男」だと見なされている。彼について言及したある男性は「マックス・サトラーに、彼の望むとおりにやらせていたら、今ごろはもっと違った町になっていたのだろうか」と自問しながらもそれを否定する。町の一部に神話と化したサトラーの急進的思想を支持するものがいるものの、町の大多数は彼のことを現実を見られない「夢ばかり追う男」とみなしているのである(P371-375)。
このように『充たされざる者』では町が直面する「危機」とは具体的に何なのか、ライダー同様に町の外部者たる読者にも明らかにされない。町には雰囲気だけが蔓延しており、人々が根拠なく「今度こそは今までとは違うチャンスだ」と期待する姿は、複雑に入り組んだ現代社会の一端をリアルに描き出していると捉えられるだろう。

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