リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年11月24日更新分(1/4)

《第30問》
イシグロは『わたしたちが孤児だったころ』の主な時代と舞台の設定を、一部同じくする映画の脚本を書いている。その映像作品のタイトルは次のうちどれか。

正解

不正解

解説

 『わたしたちが孤児だったころ』は、1930年代後半の上海と、その前後のロンドンを主な舞台として展開される物語である。特に1937年7月7日の盧溝橋事件を契機とする、日中戦争勃発直後の上海に設定された第4部から第6部は、主人公バンクスが両親失踪の謎の核心に迫っていく、この作品のクライマックスともいうべき重要な箇所である。それと同じ時代と場所に設定されているのが、あの『日の名残り』と同じジェームズ・アイヴォリー監督の映画『上海の伯爵夫人』である。
 この映画は、1936年から1937年にかけての上海で繰り広げられる、ある男女のロマンスを軸とした物語で、『わたしたちが孤児だったころ』と共通する部分も多い。特に家族を亡くした盲目の元アメリカ外交官トッド・ジャクソンと、ロシア亡命貴族の未亡人、ソフィア・ベリンスカヤ伯爵夫人の関係は、本作の主人公バンクスとヒロインのサラとのそれを思わせる。2000年に発表された『わたしたちが孤児だったころ』に対し、この映画は2005年に公開されており、創作の時期も近い。
 1番は1986年にBBCで放映されたTVドラマで、ある究極の美食家が古い教会にとりついた亡霊を食べようとするサスペンスタッチの物語である。3番は2003年に公開された映画で、ビール会社を経営する女社長が、「世界でもっとも悲しい音楽」を決めるというコンテストを主宰しようとするが、その過程で登場人物たちの過去や錯綜した人間関係が次第に明らかになっていくというもの。ともに日本未公開であるが、そのゴシック趣味や破天荒な物語展開、過去、記憶といった、イシグロ作品の特徴を示す要素が随所に見られる。

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