リベラルアーツ英語検定クイズカズオ・イシグロ > 2016年03月17日更新分(1/1)

《第7問》
『浮世の画家』はオノ・マスジが自宅を描写するところから始まる。オノの家について、該当するものはどれか?

正解

不正解

解説

『浮世の画家』(An Artist of the Floating World)は小説の舞台すべてがイシグロの想像上の「日本」に設定されている。その物語は、終戦まである地方都市で画家として活躍したオノ・マスジが過去を回想する形で進む。オノは画業による立身出世のため時局におもねり、師匠をはじめ弟子や友人を裏切ってきた。このために戦後、オノは絵筆を折って画壇を退くが、戦争に協力したことが家族や親戚、周囲の人々に与える影響に心穏やかではいられない。そこで、昔を振り返っては検分する。だが、回顧しても過去を変えることはできず、結局は弁解や追認に終始せざるをえない。
 一線を退き自宅に引きこもりがちなオノにとって、家は生活の中心であり、唯一気の置けない場所でもある。オノの自宅はためらい橋を渡った先の坂の上に建ち、石塀と立派な門構えを備えた邸宅で、街を見渡す眺望にも恵まれている。

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この家はもともと街の有力者で、特にその文化事業に多大な貢献をした故スギムラ・アキラが建てたもので、スギムラの死後、遺族の意向で「その家にふさわしい立派な人物」(P8)たるオノに「破格の安値」(P7)で譲渡された。昭和初期のことである。母屋の他に別棟があり、両者は長い廊下で結ばれていて、庭を臨み日当りもよいこの長廊下をオノは「家のなかで最も魅力的なところ」(P11)と表現する。だが、この家も先の戦争の被害を受け、戦後の物資不足の中で、修繕作業は遅々として進まない。
 オノが過去とどのように向き合うかという点とともに、自宅の修復や、自宅から見渡せる街の復興の様子にも注目しながら読んでみてほしい。

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